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風のつぶやき

「風のつぶやき」は、河原成美がお届けするコラムです。

台風13号、その翌朝に vol.56

 それは9月17日から18日にかけてのことでした。台風 13号が沖縄方面から鹿児島、宮崎、佐賀、熊本、長崎、福岡へと広範囲に渡って雨と強風をもたらし、心配された方も多いと思います。中でも宮崎では台風の中心から300kmも離れているにも関わらず竜巻が発生し、JR羽越線の列車が横転するなど、大きな被害がもたらされたようです。被災された方々に心からお悔やみ申し上げます。
 僕はその日、福岡にいました。徐々に雨風が強くなり、交通機関は飛行機、JR、西鉄電車、バス、地下鉄と運転見合わせになり、ドーム球場での野球も開催されず、百貨店や美術館、博物館などが順を追って閉館していく様子をニュースで見聞きしながら、夜の8時頃帰路につきました。車を運転していても、横揺れがしてハンドルを取られそうになるくらい激しい風に何度も出くわし、人影のない道を用心深く帰りました。道に倒れたゴミ箱からゴミが散乱し、折れた枝や木の葉が道路に貼り付き、台風の大きさを物語っているようでした。

 台風は夜半に九州を離れ次第に風も収まり、翌朝になると麻痺した交通機関も安全点検を終えたところから再開し、通常の朝に戻っていこうとしていました。台風が福岡を通り過ぎた翌日、18日月曜は敬老の日の祝日で、お休みの人も多かったと思います。僕は仕事があったので、自宅から車で10分もかからない道のりを運転し会社へと向かいました。
 その道すがら、幾つもの輝く光景を目にしました。それは、台風で汚れた街を掃除する人々の姿。お子さんがおじいちゃんと一緒にホウキ、チリ取りを持って落ち葉や小枝を集める姿。お店の店員さんが、自分の店の前とご近所さんの前の道を掃き清める姿。赤文字で印刷された福岡市の燃えるゴミの袋を下げて、落ち葉がいっぱい詰まった袋をゴミ置き場に運んでいる姿。
 「当たり前」と言ってしまえば、そうかもしれません。しかしそれは、僕の目に飛び込んできた美しい光景でした。人々が地域を清掃する姿に、「日本はまだ大丈夫」と、そんな気がしたのです。親子、会社の同僚、上司とスタッフ、ご夫婦連れ、いろんな人たちが、ただ掃除をしている。台風の残骸を文句一つ言わず、きれいに片付けようという一心で‥‥。
 こういう感覚は、おそらく僕の暮らすもう一つの国・中国や、欧米諸国にはない感覚だと思うのです。日本人の心の底に眠る美徳とでも言いましょうか、狩猟民族にない農耕民族ならではのDNAの記憶かもしれません。
 そう言えば、1995年に発生した阪神淡路大震災の時、死者数は6430人にも上ったと聞くけど、その時の神戸の人たちの立ち上がりに懸けるエネルギーと周囲の協力体制も素晴らしかった。驚くスピードで街が復興の途をたどったものです。地元・福岡で2度にわたって発生した福岡西方沖地震でも、壊れた街の補修を、公共団体をアテにせず自分たちの力で逸早く始めた人たちの姿が記憶に残っています。
 人はふだん「無関心」を装っているようだけど、何か一つ事が起きた時の思いやりや優しさ、強い精神力と判断力を、僕は信じています。「大変そうだけど、大丈夫ですか?」「何かお手伝いできることがありますか?」「よかったら、これ使ってください」、そんな声かけのできる日本という国の住人を、改めて見直した台風の翌朝の出来事でした。



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