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「風のつぶやき」は、河原成美がお届けするコラムです。

感動のアンテナが錆びついていませんか?vol.55

 この夏、あなたの心に焼き付いた思い出はありますか? 涙を流すほど感動したことは?
 こんにちは、河原です。僕は今日、会社のスタッフたちと五反田のキャッツ・シアターでミュージカル『CATS』を観てきました。1991年頃に初めて観て以降、今日でおそらく10回目くらいの観劇です。『CATS』、あなたはご覧になりましたか? ご存じない方のために少々ご説明を‥‥。
 『CATS』は都会のゴミ捨て場で生きる24匹の猫の物語。1981年5月にロンドンで初演され、世界31ヶ国に広まり、日本では83年11月11日、『劇団四季』により新宿で上演されたのが始まりです。日本全国8都市を巡回し、昨年7月8日には通算6000回目を上演したと言いますから、今日は6200回目くらいの舞台だったかもしれません。
 『CATS』上演6000回突破の秘密として「慣れと闘う」と題した新聞記事を読んで思いました。キャッツシアターの舞台へ上がる通路には、劇団四季・自戒の合言葉「慣れ、だれ、崩れ」が通路の壁に貼られているそうです。何千回と繰り返されている舞台で、アクター、アクトレス、音響さん、照明さん、舞台監督、振付師、そこに関わるすべての人にとって「慣れは厳禁」です。
 「気が緩むと動きに迫力も野性味もなくなり、たちまち人間に戻ってしまう」とはインタビューに応えたベテラン俳優・加藤敬二さんの言葉。「慣れない、だれない、崩れない」彼らのモチベーションの高さはどこから来るのでしょう? プロ意識でしょうか、それともライバル意識でしょうか?
 舞台に立つ24匹の猫、アクター、アクトレス24人すべてが主役。どうしたら本物の猫より猫らしく見えるか、彼らは常に考えています。おまけに『CATS』は作品中の動きが激しいため、どの猫にも数人ずつ代役が控えています。今日の舞台に立ちながら、明日、明後日、一ヶ月後に舞台に立てるかどうか保証されていない。いつ落とされるかわからない緊張感と隣合わせの舞台で演じる気迫が、演技に魂を吹き込んでいるのかもしれません。
 何度も修羅をくぐって植え付けられたライバル心、自分に対するプライドの高さ、内側の自分との約束を守ること、それらの集積が24匹の猫が歌い踊る舞台『CATS』となり、6000回を超えるロングランを裏付けているのでしょう。
 劇団四季の『CATS』、観客の中には何度も観に訪れる人が多いのです。そして、その人たちは「新たな感動をいただきました」「勇気をもらいました」「また観に来ます」と述べています。

 『CATS』を何度も観たおかげで僕はストーリーも憶え、どのシーンで盛り上がるかもわかっていて、「あぁ、もうすぐあのシーン‥‥」と思うだけで、周囲より一足早く涙がこみ上げそうになります。『CATS』にはそれくらい想い入れがある河原です。しかし、いつもは感動のシーンで泣くのを我慢するのに、今日は観劇中ずっと、出そうになる咳をこらえることに神経を集中していたようです。風邪をひいて『CATS』を観てしまったのがよくなかったですね。感動のアンテナが低かった。体調を損ねていたことで、感動する心や感性が疲れていたようです。
 年をとって心の周りにバリアを張ったり、人との関わりを拒んだり、忙しさにかまけて心に波風が立たぬよう逃げ腰だったり‥‥。感動のアンテナがホコリをかぶって錆びついていませんか? 自分を元気にするのは、感じる心ではないでしょうか。
 風邪をひいて『CATS』を観たことで、いつもなら気付かなかったことを考えました。『CATS』はこれからも観に行きます。体調を整えてね。
 感動のアンテナを磨いて、感度よく齢を重ねていきたいと思う河原です。



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