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「風のつぶやき」は、河原成美がお届けするコラムです。

十年目の一杯 「本気でなければ勝てっこない」vol.48

 それは4月19日のことでした。僕は東京・恵比寿にある『一風堂 恵比寿店』に居ました。
1995年4月20日に東京一号店として暖簾を掲げた恵比寿店。上京10年感謝イベントの初日に当たるその日は、朝から関東全店の店長を始め、独立してラーメン店を開いているOBたちも恵比寿店に集結し、店にはピンと張り詰めた緊張感が充満していました。

 「社長、試食をお願いします」と運ばれてきたラーメンは、僕らがふだん商品として出しているラーメンではなく、10年前の味をそのまま再現してつくったラーメンです。東京で10年にわたり応援し続けてくださったお客さまと共に、一風堂の今昔を振り返ってみたいと、価格も10年前同様550円で提供しました。
味そのものは決して新しくない、10年前を思い起こさせる懐かしい味なのですが、そのラーメンには様々な想いがこもっていて、グッと込み上げてくるものがありました。10年分のみんなの頑張り、汗、笑い、元気な声、恵比寿店から巣立って行ったスタッフの顔などが、瞬時に僕の脳裏を駆け巡っていくではありませんか。立ち上げの苦労もあれば、お客さまが増えて充分な対応が行き届かず申し訳なく思ったこと、真夏の暑い日も凍てつく冬の夜も並んで順番を待ってくださったお客さまの顔‥‥。いろいろな想いと10年という時を混ぜ合わせて煮込んだ豚骨ラーメンのおいしかったこと。感慨深さで、またあらためて「ありがとうございます」の感情が込み上げてきました。

 「変わらないために変わり続けること」これは、僕らがラーメンづくりの指針としているスピリット。僕から店長や社員の人たちへ、また彼らから若いスタッフへと伝えています。それは「味」だけではなく「心づかい」「精神」などに関しても言えること。一日一日の積み重ねが、一週間、一ヵ月、一年、3年、5年、‥‥と積み上げられ、いざ10年、20年を経た時「あぁ、やっぱり一風堂ね」と感じていただけるかどうかの評価につながっていくんだと思う。

 お客さまに伝える「ありがとう」が、どこまで本気か、これは肝要なこと。口先だけの薄っぺらな「ありがとう」では、相手のハートに届かない。一杯の丼に「ありがとう」の気持ちを込めて、お客さまにおいしいラーメンを食べていただくことで、僕らなりの「ありがとう」を伝えようと心がけてきたけれど、恵比寿店の4月19日を経験したら、もっとレベルを上げていかなければならないと感じました。
凄いんですよ、店長ばかりが10人、11人そろうと。「ありがとうございます。いらっしゃいませ」「お待たせ致しました」「3番さん、替玉一丁」「ありがとうございました。またお待ちしております」飛び交う声は凛々しくて、著しく感度が高い。すると、お客さまも「ごちそうさま」「おいしかったよ」「また来るからね」と、温かい声をかけてくださる。朝11時から夜中の2時とか明け方4時とかまで15〜18時間も緊張感を維持するのは大変かもしれないけど、僕らが目指すのはワンステップ先でもなければ、ワンランク上でもない。頭抜けた(普通の物よりずっとすぐれている。なみはずれる)ラーメン屋になっていきたいんです。頭抜けた店、人間になっていくためには、中途半端な本気や頑張りでは並のことしかできないね。そこには狂気じみて見えるくらいの本気が必要なのさ。

 東京10周年の「ありがとう」を、こんなスタッフと共に分かち合えて、気持ちを一にできたことを嬉しく思います。一風堂はこれからも頑張っていきます。時にはお叱りの声もいただきながら、見守っていただけたらと思います。よろしくお願いします。ありがとうございます。


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